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第22回 『話題の人工膝関節 ~何が違うの?単顆(片側)置換術~』

wadai022-1膝の人工関節手術には、関節全体を人工物に置き換える「全置換術」と、関節の一部のみを置き換える「単顆(たんか)置換術(片側置換術)」があります。人工膝関節手術を受けられる患者さんは近年増加傾向にあり、「単顆置換術」の割合も増えてきています。そこで、今回は医療法人社団博栄会 赤羽中央総合病院 整形外科部長 野村将彦先生に単顆置換術についてお話を伺います。

  1. 全置換術と単顆(たんか)(片側)置換術
  2. 単顆置換術
  3. 単顆置換術の特徴
  4. 繊細な手術
  5. どのような患者さんに適している手術か?
  6. まとめ

1. 全置換術と単顆(たんか)(片側)置換術

wadai022-21 膝関節全体が傷んでいて膝の変形が進んでいる場合には、関節全体を人工関節に置換します(図1)。それに対して、関節の一部のみが傷んでいて膝の変形があまり進んでいない場合に行うのが単顆置換術です(図2)。歯の治療に例えると、全置換術は総入れ歯、単顆置換術は部分入れ歯、というイメージです。

 

2. 単顆置換術

wadai022-22単顆置換術の開発は全置換術よりも古く歴史のある手術法です。しかし、昔は患者さんを選ばずに、変形が進行した膝に対しても行っていたために、治療成績が悪く、そのため、一時期ほとんど行われなくなりました。

現在は、関節症の進行具合や骨の状態を見極め、きちんと患者さんを選ぶことで治療成績が安定し、症例が増えつつあります。「膝の痛みは強いけれど全置換術をするほどではない、しかし内視鏡手術や骨切り術では治療ができない」といった患者さんにとって、非常に有効な手術法と言えます。

さらに、近年では、人工関節(インプラント)の素材、特にポリエチレンの性能が良くなり、摩耗(すり減り)が10年でわずか0.3㎜というものも出てきました。そこに信頼をおいて、比較的若い患者さんにも使用されるようになっています。

3. 単顆置換術の特徴

単顆型インプラント

単顆型インプラント

手術時間は全置換術より短くなります。当院では人工関節置換までは40分程度、その後、抜糸が要らないように傷を縫い合わせることに時間をかけるため、全体では1時間程度となっています。皮膚を縫合する時に医療用ホチキスを使用することで手術時間は短縮できますが、抜くときには多少なりとも痛みを伴います。手術時間が短いに越したことはありませんが、それよりも大切なのは痛みをなるべく与えないことだと考えていますので、皮膚の下を丁寧に縫って、皮膚の表面は医療用ボンドでとめるという方法をとっています。

合併症については、全置換術と同様に感染や血栓症(深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症)、膝が腫れるなどが考えられますが、いずれも、全置換術と比べるとその危険性は少なくなります。感染については、私は一度も経験していませんし、また、血栓症についても、手術時間が短く、かつ、翌日から動けるので心配は少なくなります。膝の腫れについては、当院では、ドレーン(手術部位から出る血液や浸出液を排出するための管)を留置していませんが、膝はほとんど腫れず、管が入っていない分、リハビリテーションが順調に早く進みます。

術後2-3日の経過は、当院では全置換術も単顆置換術もさほど違いはありませんが、その期間を過ぎると、単顆置換術では一気に回復のスピードが上がります。手術の1週間後には杖なしで歩いている患者さんがほとんどで、階段の昇り降りも膝がよく曲がるので全置換術と比べてもやりやすいようです。当然、社会復帰までの時間もより短くなります。
両側同時手術で、片側を全置換術、もう片側を単顆置換術にした患者さんがいますが、やはり単顆置換の膝の方がリハビリも早く進み、患者さんの満足度も高いという結果となりました。

術後の痛みについては、術後数日間はあります。これは人工関節手術全般に言えることですが、最近では術後の痛みの管理をしっかり行う病院が増えていると思います。当院では、硬膜外ブロック(背中から入れた管を通して痛み止めを注入する方法)だけではなく、大腿神経と坐骨神経のブロックも行っています。硬膜外ブロックでは麻酔薬を使うことが多く、副作用で気持ちが悪くなったり吐いてしまう患者さんもいます。そのような場合は硬膜外ブロックを中止するのですが、その他の神経ブロックによって、術後の痛みを患者さんに与えないことを目指しています。

4. 繊細な手術

単顆置換術の適応となる患者さんは、膝の動き自体は悪くないかたが多いため、術後の動きも当然良いと言えます。また、靭帯が残っているのでより自然な動きになります。
しかし、もともとあった靭帯のバランスを狂わせてしまうと、手術後に膝の曲げ伸ばしがきつくなったり、痛みや違和感が出る場合があります。
例えば、骨を削って人工関節をかぶせた時に、膝の靭帯が引っ張られている状態、つまり人工関節がきつく入ってしまうと、曲げ伸ばしがしにくい膝、あるいは痛みや違和感のある膝になってしまいます。
ですから、手術中は靭帯のバランスや関節のきつさなどの調整が非常に重要で、それによって術後の生活が決まるといっても過言ではありません。術者の手によるところがとても大きく、そのような意味では、非常に繊細な手術で、全置換術よりも難しい手術だと思っています。

5. どのような患者さんに適している手術か?

一度の単顆置換術で一生を送ることができればそれに越したことはありませんが、長期の成績はまだわかりません。しかし、きちんと適応を選ぶことでより長期に持たせることは期待できると思います。逆に、適応を間違えてしまうと、早期に壊れたり、また、人工関節が骨の中に沈み込んでくることもあります。
医師によって多少の違いがあるかもしれませんが、私の場合は、肢の変形が少ない(曲がっていない)患者さん、そして、骨がしっかりしている患者さんに対して単顆置換術を行っています。高齢でも骨がしっかりしているかたは人工関節の持ちが良いと考えます。反対に、骨粗しょう症が著しい患者さん、またリウマチなど全身性疾患の患者さんは、全置換術の方が適していると考えます。
また、骨壊死症の患者さんには最適な手術法と言えます。膝に痛みがあり、レントゲンでは問題ない場合でも、MRI検査で初めてわかることがあります。ですので、膝の痛みが長くつづく、あるいは夜間の痛みがある(寝ていても痛みで目が覚める)ようであれば、専門医を受診して、MRI検査をしてもらうことをお勧めします。

6. まとめ

単顆置換術は、初期の変形性膝関節症に有効な治療法です。痛みを我慢して手術を先延ばしにして、末期になってから大きな手術(全置換術)を受けるよりも、もう少し体に負担の少ない単顆置換術という選択肢があることを覚えておかれると良いでしょう。
ただし、単顆置換が絶対に良いということではありません。決して簡単な手術ではありませんし、また、膝の変形がひどくて矯正が必要な場合は、全置換術の方が適している場合もあります。体への負担が少ないという理由で飛びつくのではなく、専門医を受診して、ご自身の膝関節と骨の状態を確認し、最適な治療を受けられることをお勧めします。

協力:
医療法人社団博栄会 赤羽中央総合病院
整形外科部長 野村将彦 先生

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。