人工股関節置換術は、皆さんもよくご存知だと思いますが、表面置換術という手術方法があるのをご存知でしょうか。今回は、最近注目されている股関節の治療法、表面置換型人工股関節置換術(以下表面置換術)について、金沢大学整形外科の加畑多文先生に伺いました。
1. 股関節の表面置換術とは?
大腿骨の骨頭の表面部分と、臼蓋(骨盤の骨)を削り取って、人工の関節に置き換える手術です。1930年代に行われていた手術方法ですが、当時は、人工関節の素材の開発が進んでいないことや、骨の弱い患者さんにも手術をしていたこともあり、あまり良い成績が出ず、表面置換術が行われなくなりました。その後、素材の開発が進んだことや、手術手技の工夫で、最近また注目を浴び始めた手術方法の一つです。
2. 表面置換術の方法
表面置換型人工股関節は、軸の付いた骨頭帽(こっとうぼう)と、臼蓋側のカップから成っています。通常の人工関節と同様に、コバルトクロム合金やチタン合金などの金属から作られています。カップの表面は、骨と同じ成分のハイドロキシアパタイトでコーティングされていて、手術後に骨が入り込んで固定されるようになっています。
骨の切除
骨盤側の受け口寛骨臼の表面をけずります。大腿骨骨頭表面を削り、形を整えます。
表面置換
カップを骨盤にはめ込みます。人工の骨頭帽を大腿骨骨頭に設置します。骨頭を固定する際には骨セメントを使用します。自身の骨表面にセメントを塗り、ステムを大腿骨頭に差し込んで、インプラントを固定します。
3. 表面置換術と人工股関節置換術の違い
人工股関節置換術は、進行した変形性股関節症に対して行われている手術で、年間約3万5千人の方が手術を受けています。日本で普及しはじめてから30年以上の歴史があり、長期間の手術の成績も分かっています。また、手術方法も確立されていて、今日では最も成績の良い手術の一つとなっています。一方で、表面置換術は、1990年代から改めて注目を浴びた手術方法であり、長期の手術の成績が出ていないのが現状です。
表面置換術と人工股関節置換術の主な違いを表1にまとめています。
(表1)
4. 表面置換術の利点と問題点
最大の特徴は、骨を切る量が少なく、大腿骨頭を大部分残せることです。
利点
- 自身の大腿骨頭と、大腿骨の髄腔を残すことができるため、人工股関節全置換術と比べてより侵襲が少ないと言えます。また、将来的に容易に人工股関節置換術に変更することもできます。
- 表面置換で使用するインプラントの骨頭が大きいため、股関節を深く曲げても脱臼しにくい構造になっています。
- 金属同士の関節面は、ポリエチレンと金属との組み合わせに比べると摩耗(すり減ること)が少なく、早期のゆるみを少なくすることができます。
問題点
- 現在、最も長い手術経過が7年と短いため、それ以上長く経過した場合に起こる問題が明らかになっていません。また、金属同士の関節面は摩耗しにくいと言われていますが、耐久性や長期の摩耗粉(金属イオン )の影響はわかっていません。ただし、金属同士の関節面の歴史はポリエチレンより長く,現在までの手術経過においては、特に問題は起こっていません。
- 大腿骨頸部骨折:人工股関節と異なり、大腿骨頸部に穴を開け、そこに軸を差し込み支えます。そのため、大腿骨頸部にかかる負担が大きくなり、骨の弱い方は骨折する可能性があります。
- 手術方法が人工股関節に比べると技術的に難しく、手術時間が長くなる場合があります。また、手術の操作方法を習得するのに時間がかかるため、手術を行える医師が限られています。
現在、表面置換術と人工関節置換術でどちらのほうが機能的に優れているかは、はっきりとした研究結果は出ておらず、「差がない」という医師も多くいます。その中で表面置換術の最大の特徴は、自身の骨がより多く残せ,将来の再置換の際に,手術が容易に行えることではないでしょうか。その点では,より若年者向きのインプラントであるといえます。
表面置換が一番良いというわけではありません。人工股関節置換術も長い歴史があり、手術法が確立されている最も成績の良い手術のひとつです。手術後元気に日常生活を送られているかたもたくさんいます。どのような手術の適応になるかは、患者さんの状態によって違います。医師とよく相談して、一番あった手術方法を選択することが大切です。
関連ページ:金沢大学附属病院 整形外科 『関節・リウマチ疾患に対する治療』
http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med27/shinryo/guide/04/index01.html
協力:金沢大学附属病院 整形外科
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