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人工股関節置換術を安心して受けるために

整形外科 副部長 岸田俊二聖隷佐倉市民病院

聖隷佐倉市民病院  整形外科 副部長  岸田俊二

人工股関節置換術を選択された場合、主治医から手術の説明を受けることになります。その際、医師は「インフォームド・コンセント」と呼ばれる考え方に基づいて患者さんに説明を行います。インフォームド・コンセントとは「説明と同意」の意味で、「医師が治療について十分に説明した上で、患者さんがそれを理解し同意する」ことの重要性をあらわしています。

手術を前提にしたインフォームド・コンセントでは、手術の利点と共にその治療で起こりうる合併症についても説明する必要があります。手術前の緊張や不安の中にいる患者さんに、なぜあえて手術の危険性を強調するような説明が必要なのでしょうか。インフォームド・コンセントは、患者さんが自分の病気を主体的に捉え、その治療に積極的に参加するための知識を得る機会だと私は考えています。ですから、私は合併症の説明に時間をかけるようにしています。そして合併症の話をしたら、必ず合併症対策の説明をします。合併症とは何なのか、何が問題なのか、どうしたら合併症が減らせるのか。そして医師は合併症の頻度を減らす努力をしていることを説明します。手術の危険性を並べたてて説明責任を果たしたとするのではなく、なぜ合併症が起こって、どうすればそのリスクを減らせるのか、を示すのが医師の役目だと考えています。

合併症を防ぐために患者さん本人が出来ることもたくさんあります。たとえば感染は人工股関節置換術の合併症の中でも重篤なものの一つですが、人工股関節置換術の手術が予定されたら、入院する前から感染予防が始まると考えて準備を始めます。糖尿病のある方は感染の危険性を高めることが知られていますので、手術の前後では血糖値を200mg/Dl未満にコントロールすることが目標になります。また、人工関節手術後の歯科治療は感染に対してとても気を使うことになります。ですから、患者さんには人工関節手術前には必ず歯科受診をし、虫歯は治療してから手術にのぞむようにお話ししています。また手術後も歯科の定期受診を勧めています。

DSC00388-2医療者側の感染対策としては、手術室をバイオクリーンルームという現在最も空気清浄度が高いとされる環境にすることや、手術を行う医師などが手術用ヘルメットを着用することで、人からの細菌の落下を減少させることなどがあります。このほか、手術後の感染予防には抗菌薬使用は必須のものとなっていますが、抗菌薬の種類や使用のタイミングについても様々な研究がなされています。当院では骨・関節術後感染予防ガイドラインの推奨に従い抗菌薬の適正使用を行っています。また、手術後の創(きずぐち)の管理は近年進歩をとげている分野です。創をおおう絆創膏(ドレッシング材といいます)は、創の治りを促すための湿潤環境を保ちつつ、創の状態がよく見える構造のものが開発されています。当院の場合は、このドレッシング材を手術後7日間使用し、その間、創の消毒は行いません。股関節(OP)2また、ステープル(いわゆる医療用ホッチキス)で創の感染の危険性が高まるという報告があるため、創が閉じにくい場合や浸出液が多い場合を除き、ステープルの使用は避けています。

このように合併症やその対策を含めた治療方針を説明したあと、私が患者さんに最後にする質問があります。「もし手術で股関節の症状が楽になったらどんな事がしたいですか?」というものです。日々の股関節痛から解放されたい、日常の家事や仕事を快適にしたい。あるいは友人と旅行に行きたい、家族と家庭菜園を楽しみたい、ゴルフやハイキングといった運動をしたい、など皆さん様々な思いがあるのが分かります。

手術を前にして合併症の話しを聞くと憂うつな気分になると思いますが、手術治療を前向きにとらえることは非常に大切なことだと思います。手術が終わったらこんなことがしたいという良いイメージを持つことは、これから人工股関節置換術を受けるための強い支えになることでしょう。