社会医療法人渡邊高記念会 西宮渡辺病院
整形外科 西宮人工関節センター 医長 福永 健治
股関節や膝関節に痛みが出現すると歩行が困難になり日常生活に制限がかかるようになってきます。もちろん歩行が出来ないほどの強い痛みも問題ですが、旅行に行きたいのに痛みが出現する不安があるので行けなくなった、買い物に行くのが楽しみなのに長い時間歩くのが嫌になったなどといったものも日常生活の制限です。つまり、制限とは患者さんにとって自分らしい生活を送ることが出来なくなることです。そのような痛みの出現した股関節、膝関節に対してする手術が人工関節置換術です。人工関節置換術を施行することにより、日常生活動作は格段に改善します。この人工関節置換の手術ですが、その9割以上が股関節と膝関節で占められています。その理由としては股関節、膝関節が体重を支える荷重関節であり、歩行するために非常に重要な関節であるからです。その手術を前にして、患者さんが不安に思うこととして、手術をした直後の痛みはどういうものなのだろう?また、手術後のリハビリテーション(リハビリ)はどれくらい大変なのだろうか?と言ったものがあるのではないでしょうか。
人工関節置換術をした直後の疼痛対策として、以前は手術をしたのだから痛みがあるのは当然という考えで、痛み止めの薬を飲む程度でした。しかし、近年では積極的に鎮痛処置をしようという考え方から、鎮痛薬も数種類から選択して使用するようになっています。さらに他にも、患者さんが自分で痛いと感じた時にボタンを押せば痛み止めの薬が注入されるものや、手術をした場所に鎮痛薬を少量ずつ持続的に注入し続ける方法などを併用するようになっています。もちろん、手術後の痛みを全くなくすことは出来ませんが、以前に片側の手術をしてから数年経って反対側の関節の痛みが出現したために手術をすることになった患者さんが、前回と比較して手術後の痛みはかなり楽になったという声を数多く聞くようになりました。
次に人工関節置換術後のリハビリに関しても以前と比較して変わってきています。まず、人工関節の手術の件数が非常に増えてきていることで、各病院に人工関節を専門にリハビリを行う理学療法士が存在するようになってきました。人工関節専門で取り組む理学療法士は人工関節置換術がどのような手術であるかを理解しており、そのことにより術後のリハビリを「安全に」そして「早期に」開始することが可能になってきました。具体的には人工股関節置換術の手術後には、ある姿勢をとったときに脱臼してしまうという危険があります。手術の方法により危険な姿勢は違うのですが、以前はすべてが危険だと説明して、それらの姿勢をとらないように指導していました。これは確かに安全ではありますが、あれもこれもすべて駄目というのでは非常に制限が多くなってしまいます。しかし、手術方法を理解した理学療法士であれば、「この姿勢は大丈夫だが、この姿勢は危険だからやってはいけません」と細かく説明してくれます。このことにより必要のないことまで制限されることなく安全にリハビリを行うことが可能になります。また、人工膝関節置換術の場合には、手術後の膝の曲がりの角度を得るために、早期からの曲げ伸ばしの訓練が必要になります。いくつかの痛み止めの処置を組み合わせても、手術の創(きず)があるところを動かすのでやはり痛みはあります。その時に経験の豊富な理学療法士はやみくもに訓練をさせるのではなく「今日は少し腫れているからペースを落としましょう」あるいは「今日は調子が良さそうなので少し積極的にやりましょう」といったように、状態にあわせてリハビリをやります。そのようにすることで、患者さんにできるだけ無理をさせることなくリハビリを行うことが可能になります。そのためには同じ手術をした患者さんを数多く診ている理学療法士が担当することが大切です。そのような意味でも人工関節専門のスタッフが居ることは大切ではないでしょうか。
このように手術後の痛みへの対策やリハビリのやり方は以前のものとは変わってきています。具体的にどのような対策をしているかは各病院によって違いはあると考えますが、少なくとも10年、15年前と比較すると格段に良くなっていると考えられます。具体的にどのようなことをしているかは聞けば必ず教えてもらえるので、人工関節の手術を受ける前に、手術後のことをしっかりと聞いてから手術をされると良いのではないでしょうか。
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