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第29回『変形症関節症で悩む患者さんのご家族へ』

変形症関節症で悩む患者さんのご家族へ ~いつまでも元気に過ごせるために知っておきたいロボティックアーム支援手術~

  1. はじめに
  2. Question1 変形性関節症の手術療法、人工関節置換術について教えてください
  3. Question2 ロボティックアームを使った人工関節置換術があると聞きました。どのように行うのですか?
  4. Question3 ロボティックアーム支援人工関節置換術は、今までの手術法とどう違うのでしょうか?
  5. Question4 手術を受けるのが怖いという患者さんには、どのように説明されていますか?
  6. 変形性関節症の患者さんやそのご家族へのメッセージをお願いします
  7. おわりに -いつまでも元気に歩き続けるために人工関節手術という選択肢を-
  8. Makoシステムとは

1.はじめに

菅野 伸彦先生

あなたのご家族は、膝や股関節の痛みで悩んでいませんか?「少し痛むだけだから」「病院に行くのは大げさかな」と思っていませんか?関節に痛みが生じる変形性関節症は、高齢化に伴い、患者さんの数が増加傾向にあります 1)。痛みを抱えたまま我慢する方も多く、病院に行くと「手術」と言われるのが怖くて受診を避ける方も少なくありません。しかし、放置していると症状が進行して普通の生活を送ることが困難になり、最悪の場合は「寝たきり」になるケースもあります。「寝たきり」予防策として散歩など適度な運動が有効と考えられています 2)が、変形性関節症はその運動を阻害する原因の一つに挙げられています。

変形性関節症が進行すると薬やリハビリでの改善が難しく、手術による治療が選択肢となることがあります。最近では、人工関節手術のロボティックアーム支援技術であるMako(メイコー)システムの登場で、技術の発展とともに注目を浴びている分野です。しかしながら、QOL向上のため手術を選択することが一般的な欧米諸国と比較すると、日本では人口10万人あたりの人工股関節・人工膝関節の手術件数は半分以下にとどまっています 3)

その原因の一つに、前述のような患者さんの手術に対する疑問や不安が挙げられます。

痛みに悩む患者さんが安心して手術に臨むために、ご本人だけでなくご家族も疾患の特性や治療法について理解を深めることが大切です。今回は医療法人協和会川西市立総合医療センター・人工関節センター長の菅野伸彦先生に、ロボティックアーム支援人工関節置換術の特長についてうかがいました。

家族のサポートは患者さんにとって心強いものです。年齢を重ねても元気に生き生きと過ごすために、変形性関節症の新たな治療法をご紹介します。

2.Question1 変形性関節症の手術療法、人工関節置換術について教えてください

変形性関節症では、関節の表面を覆っている軟骨がすり減り、関節を動かすときに痛みが生じます。変形性関節症の治療は、基本的に薬物療法や運動療法などの保存療法から始めますが、進行すると関節が変形し、膝が伸びない・曲がらない・靴下がはけないなど、日常生活の動作に支障が生じるようになります。保存療法でこれらの症状が改善しづらくなると手術の適応となります。

人工関節置換術では、すり減って変形した関節を取り除き、金属やセラミック、プラスチックでできた人工関節に置き換えます。痛みの原因となる部分を取り除くので、関節の痛みを解消して以前のように動かせるようになり、患者さんによっては趣味にしていたジョギングなどスポーツへの復帰も期待できます。

3.Question2 ロボティックアームを使った人工関節置換術があると聞きました。どのように行うのですか?

ロボティックアーム支援人工関節置換術とは、患者さんの一人ひとりの関節の状況に合わせた手術計画を立て、医師がその計画通りに人工関節インプラントを設置できるよう、ロボティックアームが医師をサポートしてくれる手術です。

当センターでは、ロボティックアーム手術支援システム「Mako(メイコー)システム」を導入しています。Makoシステムでは、関節のCT撮影データをもとに3次元で患部を捉え、緻密な手術計画を立てます。手術の際は、医師がロボティックアームを操作し、計画に沿って傷んだ骨の切除や人工関節の設置を行います。

4.Question3 ロボティックアーム支援人工関節置換術は、今までの手術法とどう違うのでしょうか?

Makoシステムを用いて人工股関節全置換術をする菅野医師

関節の形・大きさ、動き方は、患者さん一人ひとり異なるため、人工関節置換術では適切な位置・角度に人工関節を設置することがとても重要です。今までの手術ではその精密さを医師個人の経験や技術に頼っていました。ロボティックアーム支援人工関節置換術では、ロボティックアームが術者の手振れを低減し、手術計画に沿って人工関節の設置が可能となったことが一番の良いところだと思います。

またMakoシステムでは、骨を削る刃先などの手術器具が計画から外れた動きをしようとすると、ロボティックアームが自動で制御し、器具の動きを停止させる仕組みになっています。そのため、関節周辺の軟部組織を傷つけてしまうリスクが従来よりも低くなり、術後の痛みを軽減することが期待できます。術後の痛みが少ないと患者さんの満足度も高まり、リハビリが早く進む可能性もあります。

最近では、人工関節置換術において、術前計画どおりの正確な骨切除と人工関節の設置、そして関節周囲の軟部組織の保護が、良好な関節機能回復に影響する 4)5)と言われており、ロボティックアーム支援人工関節置換術の役割は大きいと考えられます。

5.Question4 手術を受けるのが怖いという患者さんには、どのように説明されていますか?

手術に対して不安や抵抗感のある患者さんは多く、手術が必要な状態であるのに先延ばしにする方も少なくありません。

そういった方には「人工関節置換術は命に関わるような大手術ではありませんし、出血量は多くても200~300cc程度と1回の献血で採血される400ccより少量です。個人差はありますがほとんどの方が手術翌日にはリハビリを始めることができます」という話をして、不安を和らげてもらうようにしています。実際、手術を受けた患者さんの多くは「もっと早く手術をすればよかった」と口にします。なかには人工関節置換術を受けたことで、趣味のゴルフを再開でき、シニア大会で優勝した方もいます。

人工膝関節全置換術の合併症の一つに、関節周りの神経や血管の損傷があります。膝関節の後ろ側には大きな血管や神経が通っていますが、手術中に医師がこれらを目で確認することはできません。そのため、手術の操作で傷つけてしまう可能性があります。頻度は0.1%未満と多くはありませんが、ゼロではありません。ロボティックアーム支援手術では、正確に骨だけを切ることができるので、膝の後ろ側の神経や血管はもちろんのこと、関節周りの靭帯や腱の損傷も防ぐことができます。

また、ロボティックアーム支援手術では、骨切りガイドやそれを設置するための器具や操作が不要なことや、骨を切る前に確認・修正が行えることで骨を切る量を減らせる可能性があり、患者さんへの侵襲を抑えることができます

6.変形性関節症の患者さんやそのご家族へのメッセージをお願いします

薬物療法や運動療法を行ってもなかなかよくならない、痛みのせいで日常生活に不便を感じる、友達との旅行をためらってしまう、閉じこもりがちになる、そういった悩みがあるときは、一度、人工関節置換術について主治医と相談してみてください。変形性関節症を患うと、残念ながら、すり減った軟骨や変形してしまった関節がもとに戻ることはありません。若い頃のように活動的な生活を取り戻し、いくつになっても人生を楽しみたいなら、人工関節置換術を選択する価値は大きいと思います。

患者さんのご家族にお伝えしたいのは、変形性関節症は加齢とともに進行し、要介護状態となるリスクのある病気だということです。できるかぎり自立した生活や歩行を維持できるというのは、患者さんご本人だけでなくご家族にもメリットがあると思います。手術という選択肢について、患者さんといっしょに検討してみてはいかがでしょうか。

7.おわりに いつまでも元気に歩き続けるために人工関節手術という選択肢を

人工関節置換術は、年齢を重ねて関節の痛みを感じている人にとって健康な暮らしを取り戻す手術として確立されており、ロボティックアーム支援技術を用いた手術では、術後の痛み軽減や歩行機能回復の早期化、血管損傷の回避などの研究結果が発表されています。

もしあなたのご家族が関節の痛みで悩んでいるならば、早めに整形外科を受診し、主治医に相談することをおすすめします。ご家族の笑顔と健康を取り戻すために、一歩踏み出してみませんか。

当サイト「関節の広場」では、疾患情報から治療法まで、関節症に関する役立つ情報を掲載しています。人工関節置換術実施施設一覧も掲載していますので、手術を検討されている方は、こちらをご覧ください。

【図表】 ロボティックアーム手術支援システム「Makoシステム」を使った人工関節置換術の特長と期待できること

8.Makoシステムとは

Makoシステムは、2017年に日本で初めてとなる、整形外科領域でのロボティックアーム手術支援システムとして薬事承認を受けました。2019年からは保険適用の手術として実施されています。ロボティックアーム手術支援システム「Makoシステム」を使った手術において、脱臼リスク軽減、術後の痛み軽減、歩行機能回復の早期化や血管損傷の回避などの研究結果が見られました。2024年6月にはこれらの結果が評価されたことで診療報酬区分「人工股関節置換術(手術支援装置を用いるもの)」が新設され、このロボティックアーム手術支援システムを使用した人工股関節置換手術の保険点数が加算されました。

参考文献:

1) Yoshimura N, et al. : Mod Rheumatol. 2017 Jan; 27(1): 1-7.

2) Chih-CH, et al. : Arch Phys Med Rehabil. 2012 Feb; 93(2): 237-244.

3) 厚生労働科学研究成果データベースより OECD ヘルスインディケーター 手術、画像検査の年間件数

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/181012/201802002B_upload/201802002B0006.pdf

[2024年10月3日閲覧]

4) Kayani B, et al. : Bone Joint J. 2018 Jul; 100-B(7): 930-937.

5) Clement ND, et al. : Bone Joint Res. 2021 Jan; 10(1): 22-30.

6) Shaw JH, et al. : J Arthroplasty. 2022 Aug; 37(8S): S881-S889.

7) Kayani B, et al. : Bone Joint J. 2021 Jan; 103-B(1): 113-122.


医療機器承認番号 2900BZX00325000

販売名 Makoシステム