社会医療人社団 菊田会習志野第一病院
院長/人工関節センター長 三橋 繁(みつはし しげる)
ドクターコラムには、たくさんの先生方の手法やご意見が収載されています。手術の手法や考え方、インプラントの改良などはとても大事なトピックスですので、ご参考にされると宜しいかと思います。
一方、周術期(手術前から手術当日、その後の数週)の痛みをいかにコントロールするかも大変重要な問題です。私は、現在人工関節手術の専門医ですが、麻酔科研修を3年ほど行い、最初の論文は麻酔科の論文です。麻酔科標榜医も頂いておりますので、周術期の疼痛コントロールに関してお話したいと思います。
手術による関節の痛みは怪我の痛みに似ています。ただし、怪我と違って影響を与える組織の範囲や程度をコントロールできること、人工関節を設置することで機能障害を生じた部位を正常な形に置き換えられること、などが怪我とは異なります。したがって、人工関節置換術施行後の痛み(疼痛)はかなり有効に減らすことができます。
私が整形外科研修を始めたころは、全身麻酔で手術を行い、術後の痛みは坐薬で我慢して頂く流儀が主流でした。結果として、25年ほど前の患者さんには痛みを我慢していただく部分も多かったと思います。しかし、近年では、手術後の痛みを最小限にするため、multimodal pain control (いろいろな手法・作用機序を用いた疼痛コントロール)、preemptive analgesia (疼痛刺激入力をあらかじめプロックすることで痛みを最小限にする麻酔)などのアプローチが行われ、効果がでています。
手術中からの持続神経ブロックや、手術野への局所注射、術後の点滴での定時薬剤投与、patient controlled anesthesia (患者さんが痛いと感じた時に自発的に痛みどめを使用できる麻酔)を、副作用を少なく使用できるようになってきました。使用する薬剤も、局所麻酔薬、オピオイド、アセトアミノフェン、非ステロイド性消炎鎮痛剤、プレガバリンやミロガバリン、SNRIや漢方薬など患者さんに合わせて多岐にわたります。通常、薬剤の使用は短期間で終了しますが、使用するとしないでは術後早期のリハビリに違いが出ます。
MIS (最小侵襲手術)を用いて体への影響を最小限にし、最新の疼痛コントロールで痛みを緩和すれば、早期の退院・機能改善も得られます。先日は85歳の男性が人工膝関節手術を受けられて、翌日に独歩で退院されました。手術に際しての痛みが御心配な方は、手術中・手術後の痛みのコントロールについて、主治医にご相談されるとよいと思います。