人工関節置換術を受けるにあたり、治療にかかる費用が気になるという方は多いと思います。膨らむ国民医療費に患者側の負担も増える傾向にあります。そこで今回は、人工股関節置換術を中心に“人工関節にまつわるお金のはなし”について、大阪労災病院 整形外科 股関節外科部長の山村在慶(みつよし)先生に伺います。
- はじめに
- 人工関節置換術にかかる費用
1. インプラントの値段
2. 手術料と麻酔料 - 高額療養費制度
- 高額療養費制度の見直し
- 人工関節置換術で受けられる助成
1. 障害年金
2. 傷病手当金
3. 介護保険
4. 指定難病(特発性大腿骨頭壊死症) - まとめ
1. はじめに
2016年のデータによると、人工股関節置換術は年間およそ6万件、人工膝関節置換術は年間およそ8万件行われています。人口の高齢化にともないその数は年々増え続けています。
2. 人工関節置換術にかかる費用
人工関節置換術にかかる費用は、主に、手術前の「検査料」や「自己血貯血等の処置料」と、「入院・手術にかかる費用」です。人工股関節の場合、手術前の検査等でかかる費用はおよそ5万円で、患者さんの自己負担はその1割~3割(約5,000~15,000円)となります。
一方、入院・手術にかかる費用は、人工股関節の例では、初回・片側の手術で入院期間が2~3週間の場合は約200~250万円、人工膝関節では、初回・片側で入院期間が3~4週間の場合で約180~230万円となります。その内訳は、「手術料」、「人工関節(インプラント)代」、「麻酔料」、そして、入院にかかる費用として「処置料」、「検査料」、「薬にかかる費用」「食事代」、などです。これらは診療報酬によって金額が決まっていて、全国どこの病院でも同額になっています。このほか「特別療養環境室料(差額ベッド代:1~4人部屋にかかる費用)」や「寝巻きなどのレンタル料」などがあります。こちらは病院によって料金設定が異なります。
診療報酬とは、健康保険の対象となる医療行為に対して、医療機関側に支払われる料金で、2年に1回見直されています。材料費や薬代は引下げが続いていますが、技術料については、新しい治療法や技術の導入によって引き上げられることもあります。2018年4月の改定では、技術料にあたる医療費本体の価格は0.55%引き上げられ、薬の価格は1.65%引き下げられ、医療材料は0.09%引き下げられて、全体で1.19%の引き下げとなりました。
(1)インプラントの値段
人工関節の販売価格は製造会社によって異なりますが、患者さんが負担する金額は、製造会社に関係なく、人工関節を構成する部品ごとに決められています。固定に使用する骨セメントやスクリュー(ネジ)も同じです。人工関節の部品は、加工の仕様等の違いによって標準型・特殊型などに分類されていて、同じ部品でも価格が異なる場合があります。
なお、インプラントの費用は、病院で発行される領収書では手術料のなかに含まれるのが一般的です。
人工股関節全置換術の場合、一般的なインプラントの組み合わせは、大腿骨側のステム、骨頭と、骨盤側のカップ、ライナーです。ステムとカップには、それぞれに骨セメントを使うタイプと使わないタイプ(セメントレスといいます)があり、セメントを使うタイプの方がセメントレスよりも安価に設定されています。
人工膝関節全置換術では、大腿骨コンポーネント、脛骨コンポーネント、その間にインサートと呼ばれるプラスチックと、場合によって膝蓋骨コンポーネント(膝のお皿の部分)が設置されます。
大腿骨・脛骨・膝蓋骨コンポーネントには、セメントを使うタイプと使わないタイプがあり、セメントを使うタイプの方がより安価に設定されています。
(2)手術料と麻酔料
2018年4月からの人工関節置換術(股関節、膝関節ともに)の手術料は、376,900円です。ナビゲーションを使用して手術を行うと、20,000円が追加で算定されます。2012年3月まで、ナビゲーションは先進医療(つまり保険の適応外)であったため、施設によっては200,000円以上の追加費用がかかることもありましたが、現在はかなり身近な医療になっています。
人工関節の手術は、通常は全身麻酔で行いますが、麻酔料は手術を受ける際の体の向きによって違います。2時間までであれば、仰向けの場合は60,000円、横向きの場合は66,100円となっています。2時間を超える場合や、麻酔科医による管理など、追加で費用が算定されていきます。
3. 高額療養費制度と自立支援医療制度
人工関節置換術で入院した時の医療費が合計で210万円かかったとします。さて、患者さんが実際に支払う金額はいくらになるでしょうか?
健康保険で3割負担の人は70万円、後期高齢者(75歳以上)は1割負担で21万円、ということにはなりません。なぜなら、高額療養費制度や自立支援医療制度と呼ばれる医療費の助成制度があるからです。
高額療養費制度は、年齢や世帯の年収によって、ひと月に負担する医療費の上限を定め、それを超えた分の費用が助成されるというものです。また、自立支援医療制度は、障害のある人(身体障害者認定を受けている人)が、障害の原因となる症状に対して、日常生活動作の回復や向上を目的として行う手術などの治療に適用される制度です。こちらも世帯の年収によってひと月の負担額の上限が決められています。なお、一定所得(市町村住民税235,000円)以上では適用外となります。
4. 高額療養費制度の見直し
医療・介護制度改革の一環として、世代間あるいは負担能力による公平な医療費負担の観点から、70歳以上の高額療養費制度については、平成29年より見直しが行われています。徐々に患者さんの負担は増えてきています。主な見直し内容は下の表の通りです。
5. 人工関節置換術で受けられる助成
(1)障害年金
人工関節置換術あるいは人工骨頭置換術を受けている場合、障害年金の認定基準の少なくとも3級に該当します。基準は最も障害が重い1級から最も軽い3級までの3区分です。
関節の痛みや不具合について初めて医師の診察を受けた日(初診日)に、厚生年金に加入している場合は3級から、国民年金に加入している場合は2級以上の該当から、年金受給の対象となります。なお、受給するためには年金をきちんと納めておかなければなりません。
受給金額は、3級の厚生年金加入者で月に5~6万円程度です。
なお、年齢が65歳以上で人工関節の手術を受けた場合は、すでに老齢年金を受給できる年齢になっているため、原則として障害年金を申請することはできません。ただし、例外的に申請できる場合もあります。年金については、最寄りの日本年金機構の窓口(年金事務所)で相談することができます。
(2)傷病手当金
働いている人が、業務とは関係ないケガや病気のために仕事を休み、給与が受けられない場合などに、その間の生活を保障する制度です。
サラリーマンが加入している社会保険では、法律で傷病手当金の給付が定められています。しかし、国民健康保険では任意での給付となっています。国民健康保険には、都道府県(平成30年4月より市区町村から移管)の運営によるものと、同業種による国民健康保険組合が運営するものとがありますが、都道府県の国民健康保険では支給されず、一部の国民健康保険組合が支給しています。
企業の政府管掌健康保険組合と同種の企業による健康保険組合の場合、支給される期間は、休み始めた日から4目以降、最長1年6か月までとなっています。金額は、標準報酬日額の60/100に相当する額となっていますが、少しでも給与が支払われている場合は、その差額分が支給される仕組みになっています。
(3)介護保険
日常生活を送るうえで支援や介護が必要な場合には、介護保険を利用して介護サービスを受けることができます。介護保険の対象者は、第1号被保険者(65歳以上)と第2号被保険者(40歳以上64歳以下)に分けられ、サービスを受ける条件や保険料の算定・納付方法が異なります。
第1号被保険者は疾患によらずサービスを受けることができます。第2号被保険者の場合は、老化に起因した「特定疾病」により介護が必要となった場合にサービスが利用できます。この特定疾患に「関節リウマチ」や「両側の股関節または膝関節に著しい変形を伴う変形性股関節症」が含まれています。
介護報酬は診療報酬と同じようにサービスごとの価格が決められていて、3年に1回見直されます。なお、2018年8月から、現役世帯並みの収入のある世帯の自己負担割合が2割から3割に引き上げられます。
(4)指定難病(特発性大腿骨頭壊死症)
原因不明の股関節疾患である特発性大腿骨頭壊死症は、指定難病の一つで、医療費が助成されます。指定難病の診断を受けると、ひと月の負担額上限は最高で30,000円となります。なお、難病法の規定によって、新たな指定難病の診断は難病指定医しかおこなうことができません。難病の申請を最初にする際には、大学病院や大きな病院で難病指定医の診察を受けることになります。
6. まとめ
2018年は診療報酬、インプラントの価格、介護報酬が同時に見直された年です。ここでご紹介した助成制度も、人口の高齢化や経済状況によって今後変わっていく可能性があります。また、患者さんの状態(例えば関節以外にも病気があるなど)によって検査や治療に違いが出てきます。病院には相談窓口がありますので、ご心配なかたは医療費や利用できる助成について相談されることをお勧めします。
協力:
独立行政法人労働者健康安全機構大阪労災病院
整形外科 股関節外科部長 山村 在慶 先生
この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。