1970年代に人工股関節置換術が日本に導入され、今では年間約4万件の手術が行われるようになりました。その間、インプラントや手術方法などさまざまな進化を遂げています。今回は人工股関節手術のこの20年間の進歩について、埼玉協同病院 整形外科部長の仁平 高太郎先生にお話を伺いました。
1. はじめに
近年、人工股関節置換術が普及して、ナビゲーション手術やMIS(最小侵襲手術)等の人工股関節手術に関する専門用語を患者さん側から質問されることも少なくありません。私が医師になった頃(22年前)とは比べようもないほど、人工股関節手術への理解、認知度が変化したと実感します。
当時は元号が昭和から平成に変わる時であり、まだパソコンは一般人の手元にはなく、もちろんインターネットなどというものはありませんでした。考えてみれば時代もこのように激変しており、人工股関節手術に関しても変化していて当然とも思います。ここでは20年間に人工股関節手術で進歩したことと、変わらず必要なことについてお話したいと思います。
2. この20年間の変化
まず、日本国内での人工股関節手術件数が4倍に増加しました。そして、手術そのものも、手術創の大きさが半分以下になり、手術時間が大幅に短縮しました。最大の進歩は手術後に歩行を開始する期間だと思います。それに伴い、社会復帰までの期間も大幅に短縮されました。
- 国内の手術件数 約1万件 ⇒約 4万件
- 皮膚切開の大きさ 25cm ⇒ 7~10cm
- 手術時間 3時間 ⇒ 1時間程度
- 出血量 1000ml ⇒ 400ml
- 手術後歩行開始 1ヵ月半 ⇒ 翌日
- 入院期間 2~3ヵ月 ⇒ 2~3週間
20年前にも”神の手”と言われる整形外科医は存在し、その先生の手術手技は見事なものでした。しかしながら、人工股関節手術は発展途上でもあり、現在と比べると使用できる画像所見等の患者さんデータ、手術器械は限られたものでした。
当時は大学病院でも人工股関節手術は特別に大きな手術であり、手術時間は3時間以上かかり、皮膚切開も大きくそれと共に筋肉切離も多く、手術後リハビリに多大な時間を要しました。人工股関節の脱臼、感染症等の合併症も残念ながら現在よりもかなり多かったと記憶しています。
3. 現在の人工股関節手術
現在は手術件数そのものが増加し、さらに情報化社会となり、手術症例が専門医に集約されてきたことから、手術する医師の技量が上がりました。
器械面では正確性を高めるためにナビゲーション手術や、パソコン上での手術前プランニングを行う施設も少なくなく、人工股関節手術の正確性は格段に飛躍しています。
また、患者さんに設置されるインプラントそのものも進歩ました。インプラントの形状やサイズ等の多様化が進み患者さんに最も適したものを選択することが可能になっています。また、材質や表面加工処理にも新しい技術が取り入れられています。
最近では、関節の動きにあわせてすり合わされる素材(超高分子ポリエチレン)の製造方法の改良の改良により、より摩耗しにくく、高い耐久性を持つ材料が開発されました。長期間使用しても摩耗(すり減る)量を格段に減少させることが出来るため、直径の大きな骨頭を使用することが可能になりました。その為、手術後脱臼のリスクが非常に少なくなり、安定した機能を持つ関節を作ることが出来るようになったのです。
更に、手術方式にMIS(最小侵襲手術)を導入することにより、より小さい切開で筋肉の損傷を最小限に留めることが可能となり、手術後の早期回復や合併症の発生を最小限にしています。手術後は散歩や買い物といった日常のことはもちろん、旅行や山登り、ダンス等の趣味や、ゴルフ、テニスのダブルスといったスポーツまで楽しんでいる方も少なくありません。今まで痛みの為にあきらめていたことが、再び出来るようになるのです。
4. 昔も今もこれからも変わらずに大切なこと
当時も今も大切なことは、患者さんの股関節痛を確実に取り除くことと、設置した人工股関節がより永く機能するということです。
現在、20年前に設置した人工股関節が入れ替えの時期を迎えています。しかし、先に述べたような手術技術や器械の進歩があり、実証こそされてはいませんが、現在の人工股関節はさらに長期間の使用に耐えうるのではないかと考えられています。
20年前からの印象を引きずって、いたずらに手術を怖がり手術時期を逸している患者さんを見かけることもあり、非常にもったいなく思うことがあります。また、変形が強度で日常生活制限が高くても、60歳以前という理由だけで手術の決断に至らない方もいらっしゃるようです。現在股関節痛で悩まれている方は、近年の技術の進歩を信じて人工股関節手術を受け、より快適な日常生活を手に入れることをおすすめしたいと思います。
協力:
医療生協さいたま 埼玉協同病院
整形外科部長 仁平 高太郎 先生
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